本好き教師の読書感想文

現役小学校教師がおすすめ本を紹介しています!

2020年からの教師問題 ー 石川 一郎 著 ー

今回からは、またいつも通りのやり方に戻って、1回で1冊、最初にまとめをするという従来の形で本を紹介していきたいと思います。

さっそく、今日紹介する本は、現役教師であるわたしにとって気になるタイトルだったので、すぐに手に取りました。私自身、学校現場で働いていて、違和感を感じていたので「これからの教師の仕事って何」と考えることがありました。その答えになる部分が多かったので、同じようなことを考えている先生にはぜひ読んでもらいたいです。

著者の紹介ですが、様々な私立学校で校長を務められ、教育研究機関を立ち上げて、これからの大学入試や学校教育を変えていこうという熱意がある方です。

 

では、内容を短くまとめます。

「これからの入試は、知識の詰込みではなく、知識の活用と答えのない問いに対する自分の考えをもつことだ。そのためには、従来の学校教育を変え、なにより教師の意識を変えることだ。」です。

 

① 日本の教育に足りないものは何か

② 日本の教師に足りないものは何か

③ 教師の役割は教えることではない

 

① 日本の教育に足りないものは何か

新しく文科省が定めた教育目標が、①十分な知識・技能、②答えが一つに定まらない問題に自ら解を見出す思考力・判断力・表現力、③主体性をもって様々な人々と協働して学ぶ態度です。これは、AIをはじめ、変化の激しい時代を生き抜くために必要な力だと言われています。この力を高めるためには、これまでの知識を教えるだけの授業では無理です。

例として挙げられていたのは、読書感想文の授業です。これまでは、本が指定されていて、道徳的な面などを考慮するとみんなが似た文章を書くので、少しのスペースの中に、どのように自分のオリジナルを表現するかがポイントでした。学生にとっては、本音で感想文を書くのが難しく思考停止状態でした。これからは、本の内容に対して教師が問いを立て、学生に議論をさせてから、「自分ならどうするか」という考えを書かせます。こうすることで、読解力はもちろん、自分と人との関わり、これまでの生き方を考慮した文になるよう、表現を工夫しながら書くことになります。

このように、答えのない問いに対して自らの答えを出すことが重要になります。しかし、これだと教師が学生の柔軟な考えを評価しないといけなくなります。教師にとっては、新しいことが増え、ただでさえ過重労働なのに、さらに負担が掛かることに不満をもつ人も多くなります。だとしても、これまでの一方的な知識詰込みから、問いに対して学びを生かす「学問」に切り替えないといけません。

 

② 日本の教師に足りないものは何か

1つ目は、「教師なのに主役感をもってしまう」です。これは、わたしもそうですが、先生あるあるだと思います。「自分の授業や指導のおかげで、生徒が結果を出したり生徒が成長したりしている」とアピールしたくなります。でも、ここで大切なのは、生徒の成長だけに焦点を当てるのではなく、自分を主役にしているところです。確かに力があるので、みんなから信頼されたり人気があったりします。しかし、これまでの経験で作り上げた自分の指示を徹底したいので、指示が通るように生徒をコントロールします。こうすると、自分で考えるより指示に従っている方が結果が出るので、子どもたちは自分で考えることをしなくなり、指示待ち人間になってしまいます。これまでは、最短距離で正解に向かうのでよかったのですが、これからは、正解がない問いに対して、指示をだすことができず、教師も生徒も思考停止になってしまいます。生徒の主体的学びにはなりません。

2つ目は「生徒の答えなき答えを許容できない」です。これまでは、1時間の授業で教師が伝えた知識を理解し、スッキリして授業が終わる。感想には「よく分かりました」と書いてある。そんな授業が、良い授業でした。しかし、答えのない問いを出したときに、生徒はそれぞれの考えを出してきます。それは、全て生徒自身の答えとなり、正解となります。でも、生徒は時間内で出した答えなので、自分の答えに納得できていないかもしれません。これで授業が終わると、教師も生徒もモヤっと感が残ったままです。こうなると、不満が残り関係が悪くなるかもしれません。これまでのスッキリした授業とは違うし、新しいことをしてモヤっとするくらいならこれまで通りで行こうとなってしまいます。モヤっとさせないためには、授業後の生徒の質問に答えを出すのではなく、先生の考えとして伝えたり問い直したりしていく必要があります。

3つ目は。「知的好奇心を忘れている」です。これまでの先生の仕事は、教科書や資料で教材研究し、それを子どもたちにアウトプットする。こうなると、専門教科だけを調べることになり、それ以外の情報をインプットする時間的余裕がなくなり、好奇心が無くなってしまいます。こうなると、多様な問いを生徒に投げかけることができず、やはり従来の授業に戻ってしまいます。教師が、積極的にインプット作業をすることで、知的好奇心が高まり、生徒が興味を持つような問いを出せるようになります。こうすれば、生徒の反応が良くなり、楽しく授業をすることができるようになります。

 

③ 教師の役割は教えることではない

理想の教師は「ティーチャー」ではなく、「プロデューサー」です。これから、答えのない問いに対して、「教える」「教わる」の上下関係ではいけません。これからは、教師と生徒がともに考え関わり合いながら、お互いを高め合う関係が望まれます。そして、生徒の能力をうまく引き出す力が大切になります。

企業も、これまでのトップダウン型から、上司部下の上下関係を意識せず、ともにミッションを解決する同志として、チームワークを重視するネットワーク型に変わっていきます。ネットワーク型では、チーム全員が自分の答えをもち、本音で話し合う中で上司が調整し最適解を出す形が大切です。これを学校でもやっていく必要があります。

プロデューサーである教師は、生徒のまだ見えていない能力を引き出す力も必要です。ここで紹介されているのが「ジョハリの窓」です。これは、心理学の用語で、自分と他者がコミュニケーションを取りながら、自己分析をし自己成長に気付き、新しい窓(能力)を開けるという方法です。詳しくは、本で確認してもらうことにして、教師と生徒がフラットの関係で、問い掛けながら生徒の考えを引き出すことで、気付いてなかった自分の才能に気付き、生き生きと成長していく姿を見ることがこれからの教師の一番のやりがいです。

 

新たな時代の教育は、教師に新たなやりがいを与える。そのやりがいは、生徒の新しい能力をともに見つけていくことだと感じました。教師として、新しい価値観をいただいたこの本に感謝して、終わりたいと思います。それでは、また次の本で!!